まつろわぬ神々の子守歌

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 品川駅は西へ向かう折り返し運転の新幹線で避難しようとする人々でかなり混雑していた。  紗理奈と父親が彼女を見つけた時、二人は思わず目を見張った。純白の着物に緋色の袴、草履という巫女姿だったからだ。  紗理奈と同じ17歳にふさわしい、黒い髪を長く伸ばしていた。中学の頃の面影を残した美少女は、何かに取り付かれたような凛とした顔つきをしていた。  紗理奈は戸惑いながら話しかける。 「ミナセちゃん、だよね? あたしを覚えてる?」  ミナセはゆっくりとうなずいた。 「こんな時にごめんね。東京に知り合いは紗理奈ちゃんしかいないから、他に頼れる人がいないの」 「それはいいけど。あたしに何を頼みたいの?」 「これを」  ミナセは服装に不釣り合いなスポーツバッグを足元から取り上げ、中から50センチほどの高さの赤茶色の物を取り出した。  それは埴輪のように見えた。古代の兵士らしき形の、ずんぐりとした突起の少ない形をしている。ミナセはそれを大事そうに胸に抱えて言葉を続ける。 「うちの神社の神様からお告げがあったの。これをある場所まで運べと。あたしは東京に来た事がなかったから、行き方が分からない」  紗理奈が場所を訊くと、ミナセは着物の懐からスマホを取り出し、地図アプリの画面を見せた。  紗理奈は父親に言った。 「お父さん、この場所分かる?」  父親は地図の表示を見て、眉をしかめた。 「皇居の近くだな。大手町?」
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