まつろわぬ神々の子守歌

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 皇居のお堀にほど近い、高層ビルの谷間のような場所にそれはあった。畳にして十畳ほどの開けた場所に、ポツンと墓石のような石碑が立っている。  玉砂利を敷き詰めた地面の中に石畳の通路があり、その石碑の前まで行ける。近代的な高層ビルに囲まれたその場所は、まるで異世界に紛れ込んだかのうような気分にさせた。  ミナセは石碑の前に歩み寄り、うやうやしく埴輪を両手で抱え上げた。  ドクンという低い音が辺り一帯に響いた。紗理奈と父親が驚いて後ずさる。どこからともなく野太い声が聞こえてきた。 「おぬしが宿儺(すくな)か?」  紗理奈と父親が辺りを見回すが、人の姿は全くない。なおも声が響く。 「朝敵同士のよしみで力を貸せと言うか? 面白い。その話、乗ってやろう」  紗理奈はその敷地の端にある案内板に何気なく目を止め、そして叫んだ。 「これって、将門(まさかど)の首塚?」  紗理奈はミナセに向かって叫ぶ。 「平将門(たいらのまさかど)って、昔の謀反人でしょ? そんな悪人に何をさせる気なの」  あの声が笑いを含んだ口調で言う。 「娘よ。案ずるな。われが朝敵となったのは、民の暮らしの安寧を願っての事。坂東新皇(ばんどうしんのう)を名乗った身として、おぬしら草莽の民は、われが守ろう」  ミナセの手から埴輪が宙に浮きあがった。突然、雲一つない晴れた空に稲妻が数度走り、埴輪がまばゆい光に包まれた。  紗理奈と父親が顔を覆っていた手を降ろした時、すぐ横の道路の上に巨人が立っていた。  古めかしい甲冑を着た高さ20メートルはあろうかという巨体。その巨人が紗理奈たちに背を向けると、体の後ろ側にももう一つの顔があった。  その巨人は地鳴りのような足音を立てながら、ある方向へ歩き出した。その巨体を見送りながら、紗理奈はミナセの側へ駆け寄った。 「ミナセちゃん、あれは何なの?」  ミナセはぐったりとして紗理奈にもたれかかるようにして答えた。 「あれは両面宿儺。昔、飛騨地方で大和朝廷と戦ったという伝説の鬼神様。将門様と力を合わせて、あのヌエという怪獣と戦うのよ」
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