まつろわぬ神々の子守歌

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 巨大生物ヌエは湾岸の埋め立て地域の幹線道路沿いに北上。行く先々でビルを押し倒し、逃げ遅れた人たちを蛇のような尾で餌食にしながら、のし歩いた。  陸上自衛隊の戦車隊と対戦車ヘリが攻撃を加えたが、ヌエの体はたとえ砲弾で肉をえぐられても、見る見るうちに再生してしまい、全くダメージを受けていないようだった。  航空自衛隊の戦闘機によるミサイル攻撃も検討されたが、逃げ遅れた住人がいる可能性のある人口密集地での空爆は危険が高過ぎるとして見送られた。  日比谷公園の南端で巨人両面宿儺とヌエは対峙し、周りの建物をなぎ倒しながら、激突した。  巨人の腕に吹き飛ばされたヌエは、地面に伏した後、30メートルの高さにジャンプ。巨人の背後を取って背中から襲いかかったかに見えた。  だが、巨人の頭の後ろにある顔が目を見開き、腕と足の関節が今までと逆の方に曲がり、体の前と後ろが入れ替わった形になった。  カウンターパンチを食らった体勢のヌエは霞が関の官庁ビルに倒れこみ、財務省本庁舎の外壁を一部破壊した。  だが、巨人の攻撃をいくら食らっても、恐るべきスピードで再生する体のヌエに決定的なダメージを与える事はできず、一進一退の攻防が繰り返された。  巨人と巨大生物は絡み合ったまま、国会議事堂へと迫って行った。ヌエの凶暴さはとどまる事を知らず、巨人の方が防戦一方になり始めた。  皇居内では宮内庁長官と侍従長が押し問答をしていた。宮内庁長官は色をなして侍従長に詰め寄る。 「早く両陛下に避難していただかないと。自衛隊ですら足止めできないんですよ」  侍従長は柔らかい物腰で、しかし決然とした口調で告げた。 「陛下は宮中三殿でお祈りを捧げておられます。国民を置いて自分たちだけ安全な場所へ逃げる事はできぬ、とのお言葉でございます」 「それでは、陛下の身に万一の事が起きかねませんぞ!」 「ならば国民を守り切れなったという事になります。もしそうであるなら、国民と運命を共にするのが、この国の象徴たる自分の責務である。両陛下とも、そうおっしゃっておられます」  宮内庁長官は引き下がらざるを得なかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加