2.やっぱり見つからなくて

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2.やっぱり見つからなくて

         ●  俺はバイトが終わったらすっ飛んで帰った。  玄関の前で、スマホに110を打ち込みワンタッチで繋がる状態にした。そして深呼吸。 緊張しながら家に入った。 「誰だ。いるのは分かってるぞ!」  俺は牽制する。鍵を失くした時はいつもそうしてる。万が一泥棒が入ってた場合の恐怖の裏返しだ。  『盗る物がなさすぎる』って逆ギレで襲ってくるかもしれないから、応戦するための気合いも入れてる。  物音はしないが、念のため傘を手にしてトイレ、風呂、クローゼットを開けて確認した。  よし、誰も潜んでない。侵入された形跡もない。  ではゆっくりキーホルダーと鍵を探すとしよう。  実はバイト中と帰り道で「あそこにあるかもしれない」って箇所がいくつか思いついてる。  なかった…。  絶対に家にあるはずなのに見つからない怒りを解消するため、こんな時はいつも汗をかくまで枕をタコ殴りする。  ああスッキリした。  けど今回はその後、落胆と自己嫌悪でうずくまる。  鍵は不動産屋に言えば何とかしてくれるだろう。でもセリがくれたキーホルダーは…。  明日は休みだし今夜はやけ酒だ。昨日も飲んだけど。買い置きしてある酒をとことん飲んでやらあ!  気づけばもうすぐ日付が変わるじゃん。どいぶ酔いが回ったな。  待ってるものも来ないし、もう寝ようと思って布団を敷いてる時、ゴミ箱が視界に入った。ツマミのゴミがけっこう出たからパンパンだ。  ゴミ出しの日は明日だけど、こんなに飲んじまったら早起きできない。  罪悪感はあるけど、今こっそり出しちまおう。  こういうルール違反、セリは絶対許さなかったな。            ▲  コウジが帰って来たようだ。待ったぞ。すっかりゴミ箱のニオイにも慣れちまったよ。  「誰だ。いるのは分かってるぞ!」とか言ってる。やけに静かに帰って来たと思ったら、泥棒がいやしないかってビビってやがんのか。  どちらかと言ったら臨戦態勢に入らせないように黙って近づいた方がいい気がするけどな。でも安心しろ、誰も来ちゃいねえよ。  トイレとか風呂とか開けてるな。開ける度に威嚇するような声を発してるけど、誰もいないって知ってるとただのマヌケだ。  やっと誰もいないって判断したみたいだ。お、早速オイラの事を探し始めたぞ。  朝より自信に満ちた顔で手際よく探してるけど、見当違いも甚だしい。  この狭い部屋で1時間も探し続けてるよ。  一度もゴミ箱は見ようとしねえ。ここに入ってるとは思いもしてねえんだな。  マズイぞ。このまま気づかれなかったらオイラ捨てられちまう!  あ、枕の乱打が始まった。  ん?今日はその後体育座りするのか。  やっぱりオイラの事は諦めきれない感じに見える。  酒飲み始めやがったか。昨日も飲んでオイラを失くしたのに懲りてねえのか。  菓子とか惣菜とかツマミのゴミがけっこう出そうだな。  それらを捨てる時に気づいてくれる事に賭けるしかねえ!可能性は低そうだけど。  やっぱり…ゴミ箱の中なんて見ないでポイポイ捨ててきやがる。もうこれほぼオイラのこと見えねえって!  真面目な顔でスマホばっかイジってねえでこっち見ろ!気づけーっ!!  布団敷いてるのか?  あ!今コウジと目が合った気がする!助けてくれえ!!  ん?ちょちょっ!  袋の口縛りやがったぁ!!  外に連れ出されてる気がする…。そして捨てられた気がする。  こんな形でキーホルダーとしての一生を終える事になるのか……。
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