願い

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願い

 私には母親と言う存在の記憶が全く無い。  物心がついた時には父の実家で祖父母と4人で暮らしていたし、写真の一枚も残ってはいなかった。位牌すらも母の実家にあるとのことであった。  そんなことだから、何らかの事情があることは、私にも早くから分かってはいた。  あれは、たしか小学3年生の時だった思う。一度、優しかった父にその理由を聞いてみたことがある。  しかし、父はそれに突然と強張った顔で黙り込むだけで、何も話してはくれなかった。  その時、私は父が母を憎んでいることを確信してしまった。  小学4年生の時。  私は父も亡くし、祖父母の養子となった。  祖父母は割と裕福であったので金銭的に不自由をすることはなかった。ただ、厳しい人であったことと、世代が違い過ぎたせいか、子供に対する理解が他の親御さんたちとはかなりのギャップがあった。  その為、中学生になっても同年代の女の子の様にお洒落はさせて貰えなかったかったし、友達同士でのお出掛けも許しては貰えなかった。  スマホを持たせてもらったのだって高校二年生の夏、部活の合宿前に必要に追われてのことであった。  そんなことだから、私は元々の内気な性格も相まって、自然と友人と言う存在とは疎遠となってしまい、そこから高校で部活の主軸となるまでは、独りぼっちで居ることが多かった。  それでも、希望する高校に入れて貰ったし、その先の進路にだって理解を示してくれていたので、当時から祖父母には感謝はしていた。  しかし、大学進学も決まった高校卒業の迫ったある日のことである。  私はその祖父母さえも事故で亡くしてしまった。
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