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大学を卒業して、三年後に結婚した。
それから一年が経つ。
そろそろ子供のことでも考えようかと相談していた、矢先だった。
「僕は、小さいころから、自分の家族が欲しかった。子供が欲しいんだ。それも、君との子供なら、なるべくたくさん。頑張って働くから」
勢い込む僕に、彼女はほほを赤らめながら、「なんだか、私なんかが家族を持つなんて恥ずかしいけれど。……でも、あなたの子供なら欲しいかな」と言いながら、家族の計画について考えてくれていた。
なのに、どうして。なぜこんなことに。
野々花は僕のすべてだった。
彼女には身寄りがなく、結婚式にはゼミの教授やさほど仲良くもない友人などが呼ばれていた。僕はいまだに、彼女の親類を一人も知らない。探せばどこかにはいるのだろうが、特に探さなくても困りはしないので、そのままにしていた。
無理に野々花の経歴や親族について掘り下げようとしなかったのは、僕自身、子供のころから家族のいない身の上だったこともある。もし野々花なりの事情があるのなら、いつか彼女の方から話してくれるまで待とうと思った。
「あなた、知ってる? 人の中には、人間ではないものが混じっていることがあるのよ」
ある日いきなり、野々花がそんなことを言ったことがある。
「なんだ、それ?」
「いろいろよ。ただ人間ではないというだけで、いろいろなものがいるの。怖いわよね。昔は天涯孤独だと、特にそういう噂を流されたりしたみたい」
「親兄弟のいない子なんて、けっこういるだろ。僕も君もそうだし。それに僕はどこの誰がなんであろうと、野々花がいてくれればそれでいいよ」
そう言うと、野々花は困ったように笑った。
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