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目を開けると、部屋の中は真っ暗だった。
枕もとの時計を見ると、日付が変わっていた。
僕は思わず跳ね起きた。丸一日眠ってしまい、翌日の夜になってしまったというのか。
野々花は、当然ながら微動だにしていない。人間の体は、常温ではどれくらい腐らずにもつのだろう。
ふと、そうだあの赤ん坊、と思いついた。
当の本人はすやすやと寝息を立てて、僕と野々花の間でいびつな川の字で寝ていた。思わず苦笑する。
だが、そんなのんきな気分は、次の瞬間に吹き飛んだ。
僕の足元に、もう一つ別の体温を感じる。
僕は、起き出して電気をつけた。そして悲鳴をあげる。
ベッドの足元側に、もう一人の赤ん坊がいた。年のころは一人目と変わらず、ようやく寝返りが打てるかどうかという乳児だ。
僕はベランダに飛び出した。それからダイニングへ、トイレへ、バスへ、次々に首を突っ込む。
しかし誰もいない。
赤ん坊がいれば、親がいるはずだ。それがどこにもいない。いうまでもなく、戸締りはきちんとしている。なぜ。どうやって。
「親は……どこなんだ。どうしてこんな……」
混乱で、気が遠くなりそうだった。ただでさえ野々花の死に打ちのめされているところへの非常事態に、思考能力がひどく低下する。
明日だ。明日考えよう。今は、ろくなことができない。
僕は赤ん坊二人がベッドから落ちないように中央に乗せ、野々花と僕で挟み込むようにして眠った。
次に起きた時、またも部屋は暗かった。
「嘘だろ……」
時計の日付は、さらに一日進んでいる。まるでもう自分は、太陽の上っている時間には起きられないのではないかと錯覚しそうだった。
そして。
「ああ……」
ベッドの上には、またも赤ん坊が一人増えていた。これで三人。
「親は……どこなんだ。どこからきて、ここに子供を……そしてどこへ……」
どこにもいない親。どこからともなく現れる子供。姿を現さない何者かは、この締め切ったマンションにどうやって出入りしているのか。
くらくらする頭で、まともじゃない結論にたどりつく。
「親は……もしかして……ここにいるのか?」
僕は野々花の体を見下ろした。衣服、とくに白いロングスカートには、何も変わりがないように見えるが。
「姿を現さないのじゃなくて……もうとっくに見えている……?」
<あなたの子供なら欲しいかな>
死んでいるはずだ。そうでなくても、まだ僕との間で子供なんて作っていない。
そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。
胸中でそう繰り返しながら、僕は、野々花の体をシーツでぐるぐる巻きにした。ごめん、ごめんよ。でも、確かめさせてくれ。
死体は子供を産まない。当たり前だ。人間の死体なら。
<人の中には、人間ではないものが混じっていることがあるのよ>
野々花の声が頭の中で反響する。
気が遠くなり、僕はまたも眠りに落ちた。
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