2人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めると、やはり夜中だった。
日付はまた一日進んでいる。月明かりの中で、野々花の体をなでた。
ミイラのようにぐるぐる巻きにしたそのシーツには、乱れはない。野々花の遺体も何も変化はない。
しかし、僕は思わずえづいた。
四人目の赤ん坊が、僕の足元にいる。
なぜだ。
なぜ止まってくれない。
確かに君の子供は欲しかった。でも、こんなのは無理だ。
その時、野々花の口元に、小さなゆがみを見つけた。唇を開けてみると、中から、メモ用紙が出てきた。唾液にすっかり浸っていたが、電気をつけて慎重に開くと、ペンで書かれた文字が読み取れた。
『夜になると、時々あなたは別人のようになる。私のことを、餌を見る動物のような目で見ている。私を栄養として欲している。あなたはどうやら、子供を産みたがっている』
死の間際に、彼女はこれを口の中に隠したのだろうか。隠す? 誰から?
あなたとは? ……僕のことだとしか考えられない。子供を産みたがっている? 誰が?
僕は、今度は自分の胸から下をシーツでぐるぐる巻きにした。
そして目を閉じる。
寝入って、どれくらい経っただろう。凄まじい違和感に、僕は目を覚ました。
足の間から、硬く熱い芋虫が狭いトンネルをこじ開けるような感覚で、何かが僕の体の外へ出ようとしている。
巻いたシーツをみちみちと押し広げながら、五番目の子供は外界に出ようとしていた。
僕だ。母体は僕だった。
人間ではなかったのも、僕だったのだ。
野々花の生命力を吸い取り、子供のころからの願望だった繁殖をかなえた、人ならぬもの。それが僕だ。
僕はどうして野々花を好きになったのだろう。野々花は僕をどう思っていたのだろう。
僕の周りを、すでに生まれていた四人の赤ん坊が囲んでいた。
その顔をよく見ると、まるで写真を貼り付けたように、僕の顔にそっくりだった。
終
最初のコメントを投稿しよう!