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「オブリガーダ! オブリガーダ!」
おばさんは一瞬驚いたように目を見開いたが、よしよしとカワウソ黒鍵キーを撫でている。
「うそ、なんて言ってるかわかるの? カワウソ黒鍵キー、お前話せるの?」
「アメエンチーラノーベンボーア」
「なんだって?」
「アメエンチーラノーベンボーア」
「なんて言ってるか分からないけどうそに反応している気がしてならない……」
よくわからない緑に囲まれて、言葉の通じないおばさんにザルを渡されて外国語でもカワウソ黒鍵キーに怒られる。助手くんは半べそをかいているとソノウチミツカール三世へ通信が入った。
「やあ! 助手くん!」
その声は博士、と助手くんは画面に張り付く。
「博士! ご無事でしたか」
「助手くんこそ無事で何より! 実は設定をミスってしまってね、そこはブラジルのコーヒー豆農家だよ」
「ぶ、ブラジル?」
てことはもしかしてマントル突き破って反対側に来たってこと、と気付き助手くんは「えー!」と叫ぶ。のんきにくつろいでいる博士は氷の入ったグラスを回し、サングラスをかけていた。
「そ、そちらは?」
「僕は南の島でバカンス中さ」
「なにいいいい?!」
「いつか探しに来てくれよ」
僕が行くんですか、と助手くんは唇を噛む。別れ際の妙にかっこつけた博士の姿にすっかり騙された。設定ミスなんてうそだ。
「すぐに行くって言ったのに……この、うそつき博士えええええー!」
「アメエンチーラノーベンボーア」
「う、る、さ、い!」
「ピエン」
ポルトガル語仕様になってしまったカワウソ黒鍵キーと二人(一人と一匹)、どうやって生きていこうかと助手くんは青ざめる。
「もー! 博士のバカアアアアアアア」
どこかの南の島でバカンスしているという博士に届くよう、青空に向かって助手くんは叫んだのでした。
おしまい。
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