博士と不思議な道具たち

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 テレビだけが光っている小さなアパートの一室。そこには一生に一度、たいそれたことをしてみたいと願ったが故に道を間違えた気の小さい男が一人、落ち着きなく部屋の中を歩き回っている。 「くっそあのジジイ、変なもの渡しやがって」  先ほどコンビニに出かけた際、老人が落とした缶を拾ってやったばっかりに押しつけられた腕時計を外そうと躍起(やっき)になっていた。 「全然とれねえじゃねえかよ!」  ガン、と薄い壁を叩く。同時にどさっ、と壁に沿って大きな荷物が倒れた。はめたとき、カチッと妙な音がしたことは確かだ。 「早くしねえと」  気持ちだからと握らされたあげく身に着けたところを見たいと懇願された。しつこい、(わずら)わしい、と老人をぶん殴りたかったがコンビニの目の前だ。通報されかねない。罪を重ねることなくアパートへ速やかに戻るため男はしぶしぶ従った。 「ライトが消えねえ……これじゃ捕まっちまう!」  ガチャガチャと掻きむしるように動かしていると横にあるボタンに触れた。 「ビッ、探しものはなんですか」 「えっ」  機械的な音声が腕時計から流れ始める。 「ビッ、見つけやすいものですか」 「なんだと? これしゃべるのかよ!」 「ビッ、鞄の中と机の中も探しましたか」 「うるっせえなくそ!」 「ビビッ、脈拍数とSpO2、皮膚の発汗に異常が見られます。S-087機の探しもの対象:イを隠した模様。直ちに協力者を求め、必要に応じて緊急通報を――」 *
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