【プロローグ】

2/2
前へ
/32ページ
次へ
「今日から新しいお話です。キツネさんが出てくるお話。誰か58ページから読んでくれるかな」  先生がそう言うと、一斉にクラスメイトが弧銀(こぎん)を見る。どこからともなく「狐憑き(きつねつき)、狐憑き」とコールが起こる。弧銀は、はやしたてる男子を視線で一蹴してから「はい」と手を挙げた。  朗読が得意だからではない。以前、何度か教科書にキツネの登場するお話を読んだことがある。『花いっぱいになあれ』も『手袋を買いに』も、幸せな気持ちになれるお話で、大好きだ。だからこのキツネの話も率先して朗読したいと思った。 「はい、弧銀ちゃんお願いね。長いから読めるところまででいいよ」  5年生になったとは言え、この話は一気に読みきるには少し長い。しかし、弧銀は主人公のキツネに気持ちを重ね、心をときめかせて読み続ける。  自分が ごん であるかのような気持ちになる。ウナギを奪ってしまったことを反省し、兵十の為に柿や栗を届ける。最初は詫びの気持ちだった。しかし、気づくと兵十の為に努力することで、自分の心が温かくなるのを感じていた。  だけど…  ドーーーーン 「ヒッ」    弧銀は、声にはならない声を上げた。まるで、本当に胸を銃で撃ちぬかれたかのような衝撃を感じ、教科書を落とす。    呆然とする気持ちの中、自分の中で自分とは違う何かが目覚めたような、そんな感覚に襲われた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加