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「今日から新しいお話です。キツネさんが出てくるお話。誰か58ページから読んでくれるかな」
先生がそう言うと、一斉にクラスメイトが弧銀を見る。どこからともなく「狐憑き、狐憑き」とコールが起こる。弧銀は、はやしたてる男子を視線で一蹴してから「はい」と手を挙げた。
朗読が得意だからではない。以前、何度か教科書にキツネの登場するお話を読んだことがある。『花いっぱいになあれ』も『手袋を買いに』も、幸せな気持ちになれるお話で、大好きだ。だからこのキツネの話も率先して朗読したいと思った。
「はい、弧銀ちゃんお願いね。長いから読めるところまででいいよ」
5年生になったとは言え、この話は一気に読みきるには少し長い。しかし、弧銀は主人公のキツネに気持ちを重ね、心をときめかせて読み続ける。
自分が ごん であるかのような気持ちになる。ウナギを奪ってしまったことを反省し、兵十の為に柿や栗を届ける。最初は詫びの気持ちだった。しかし、気づくと兵十の為に努力することで、自分の心が温かくなるのを感じていた。
だけど…
ドーーーーン
「ヒッ」
弧銀は、声にはならない声を上げた。まるで、本当に胸を銃で撃ちぬかれたかのような衝撃を感じ、教科書を落とす。
呆然とする気持ちの中、自分の中で自分とは違う何かが目覚めたような、そんな感覚に襲われた。
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