【苦悩と決意】

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 未だに戦争の傷跡が残る街で、黒崎家に一人の女の子が産まれた。低体重児で、明日にも命が尽き果てそうな赤ん坊。1ヶ月ほど入院を続け、なんとか命を繋ぎ止めた。 「もう大丈夫でしょう」  医者の言葉で、ようやく退院が決まり戸籍を与えられ、名前が付けられた。病院の弱々しい蛍光灯が、色素の薄い髪の毛に反射して弧を描くように銀色にきらめくから、名前は弧銀。  生命力が弱く産まれた子は、すぐ亡くなる可能性があるので出生届を出さない。そんなことが珍しくない時代。自分の誕生日が、本当の生まれた日と異なるなんてことを、弧銀は当然覚えているはずがない。  街は急速に復興が進む。それと共に成長した弧銀だったが、3歳の時に異変が起きた。何日も激しい咳が続き、熱も引かない。ついには息が絶え絶えになり、両親が慌てて病院へ担ぎ込んだ。  弧銀は同じ年の子供に比べて身体が小柄で、特に肺の成長が遅いことが判明した。復興の進むこの町は灰とすすにまみれている。この環境で、弧銀が生きて行くのは困難だということだ。  自分の身体が弱かったことも、そのせいで両親が苦渋の選択をしたことも、3歳までは街に住んでいたことも、弧銀は当然覚えているはずがない。  
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