ep.1 その女、ワーカーホリックです(海李子side)

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「ちょ、っと! 深沢くん? これは業務妨害ですよ!?」  海李子は急いでタブレットを取り返したが、とき既に遅く、消去しました、のポップアップが浮かぶ。睨むように深沢を見やると、彼は涼しげに腕を組んだ。 「これは業務外だからね」 「……どういうことですか?」 「そのままの意味だよ? 仕事だけすればいい」 「だから、さっきも言いましたが、私は業務の延長線で紫崎くんのことを見ています」  何か問題でも?  海李子は下唇を噛みしめ、深沢を睨みあげる。  先ほどと同じように息をゆっくりと吐き、時間をカウントする。  1、2、3、4、5。  自分から、絶対眼を逸らしたくない。  見続けると、深沢はじわりじわりと顔を寄せる。 「キスなら目を閉じて」 「……しません」 「ミーコ、あのさぁ……」 「ミーコって呼ばないで下さい。疑似恋愛は終わりました」  深沢は、へぇ、と呟く。すぐに含み笑いを浮かべ、海李子の腰に腕を伸ばす。 「あの夜のこと、覚えてた? ミーコとそういう関係になれたってことは、人類が月に上陸したぐらい大きな一歩だと思うけど」  深沢の手を、虫を払うように叩く。 「……痛いなぁ」 「経験がないのは、婚活アドバイザーとして依頼人(クライアント)の気持ちに寄り添えないと思い、恋愛の真似事をしただけです」 「……寝ただけでは、恋愛とは言えないよ?」 「経験はつませてもらいました」 「いや、……どう考えても、経験不足だと思うなぁ?」
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