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「ちょ、っと! 深沢くん? これは業務妨害ですよ!?」
海李子は急いでタブレットを取り返したが、とき既に遅く、消去しました、のポップアップが浮かぶ。睨むように深沢を見やると、彼は涼しげに腕を組んだ。
「これは業務外だからね」
「……どういうことですか?」
「そのままの意味だよ? 仕事だけすればいい」
「だから、さっきも言いましたが、私は業務の延長線で紫崎くんのことを見ています」
何か問題でも?
海李子は下唇を噛みしめ、深沢を睨みあげる。
先ほどと同じように息をゆっくりと吐き、時間をカウントする。
1、2、3、4、5。
自分から、絶対眼を逸らしたくない。
見続けると、深沢はじわりじわりと顔を寄せる。
「キスなら目を閉じて」
「……しません」
「ミーコ、あのさぁ……」
「ミーコって呼ばないで下さい。疑似恋愛は終わりました」
深沢は、へぇ、と呟く。すぐに含み笑いを浮かべ、海李子の腰に腕を伸ばす。
「あの夜のこと、覚えてた? ミーコとそういう関係になれたってことは、人類が月に上陸したぐらい大きな一歩だと思うけど」
深沢の手を、虫を払うように叩く。
「……痛いなぁ」
「経験がないのは、婚活アドバイザーとして依頼人の気持ちに寄り添えないと思い、恋愛の真似事をしただけです」
「……寝ただけでは、恋愛とは言えないよ?」
「経験はつませてもらいました」
「いや、……どう考えても、経験不足だと思うなぁ?」
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