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めげずに深沢が大きな手で海李子の頬を包むように差し出す。それをふいっと回避。
「足りてます。それにここは職場です。やめてください」
「仕事が終わればいいの?」
「仕事が終われば、他人です」
「……紫崎には触らせたのに」
「それは、ぐ、偶然ですっ!」
踵を返し、10階の踊り場に駆け上がる。扉を開けるとガラス張りの壁にウエディングドレスが並んでいる。
Aラインの脚が長く見える小柄な人に似合うドレスや、プリンセスラインドレスは上半身にぴったりフィットし、ウエストからフレアで広がったお伽話のお姫様のような華のあるシルエット。
マーメードラインドレスは人魚の尾鰭のように裾が広がり、女性らしい体型を誇張するフォルムだ。
様々なドレスが窓の向こうの青空に映え、まるでスカイブルーの枠の中に浮かんでいるよう。圧巻の風景に、海李子は顔をりんご色に染め、すうっと吸い込まれた。
その背中を見つめ、華々しいウェディングドレスより、パンツスーツが颯爽とまぎれてゆく姿が一番美しい、と深沢は嘆息する。
「ワーカーホリックだねぇ……。まぁ、そこがいーんだけど」
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