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週末は晴れた。
社宅のベランダで、ゆるゆるとした白を口から吐き出すと、紫崎の周りは、一瞬でくゆった。
「お待たせ」
「待ってないです」
聞き覚えのある声。
紫崎が見下ろすと、深沢と海李子が肩を並べ、はにかみ合いながら、駅に足を向けた。
以前、仕事終わりに彼女が社宅前の公園でうろついていた時は興味が勝ち、目が離せなかった。
待機時間を円グラフにすれば、と自分がされたことを彼女にしてみるとどんな反応を引き出せるのかと考えた。
しかし、あの時のただ“気になる”を、今は超えている。
「あ〜、……最悪か」
タバコを灰皿に押し付け、部屋に入るとスマホが点灯していた。
メッセージは次々と表示される。ハリネズミのアイコンは荻原ゆゆはのもの。
―――、一志くんのバーカ。
―――さっさと失恋しろー。
―――って、もうしてるか。
これはもうブロック決定、とタップしようとした瞬間、電話が鳴った。
「んだよ」
「うわっ、ビックリっ! 一志くんが電話に出た」
「かけてきたくせに、その言い方はねーだろ」
「……知ってる? 今日、倉持せんぱい、深沢さんとデートなんだって。化粧を教えてって言われて、あたしのイブサンローランのシャドウを貸したの。知ってる? 限定色はデパコスの中ではプレミアで、もう入手不可なもの」
「……だから、何?」
「だから……」
「だから、倉持先輩、めーちゃくちゃ可愛いけど、一志くんは見れない。だって、ただの同期だもんね? っていう、腹いせ電話」
まんまと腹が立った紫崎は舌打ちをする。
切ろうとした気配を察知したのか、ゆゆは、
「あー、待って待って」
と、高い声をあげた。
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