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「なに? うぜぇから切るわ」
「……可哀想な一志くんにいいことを教えてあげる」
「へーへー、可哀想でもなんとでも、呼べよ」
「……本当に冷たい。ほんと、あたしのことはどうでもいいんだね」
電話の向こうで沈んだ声がして、紫崎は呆れたように息を吐いた。
さっき、海李子と深沢が並んで社宅から遠ざかる姿を見たとき、胸が痛んだことを思い出す。
自分が海李子に向けるような、ただ純粋に幸せでいて欲しいという想いで、ゆゆはが向き合って欲しいと言っていたとしたら……、今までの言動は不誠実だったと、理解はできる。
急にばつが悪くなって、電話を切るのをやめた。
「……った、よ」
「……へ!?」
ゆゆは続けて、なに、なんて言ったの、と動揺と興奮を混ぜた。
「なんて?」
「つーか、セフレって言って、俺はお前にコントロールされるもんかって思ってた。ちゃんとお前がなにを考えてるのかも知りもせずに、決めつけてた。自分本位のグズだった。
だから、……悪かった」
「っ!」
息を呑むような呼吸音が聞こえた。
「な、んで、そんな謝るとか……」
「いや、セフレのつもりでも、相手がそうじゃなかったら面倒だろ? 俺は、ゆゆはとするのは気持ちが良かったし、お前のことは嫌いじゃなかった。だから、素直にそう言ってたけど、結果、お前の気持ちには興味がなかった。……、ごめん」
「……より、残酷だよ……」
電話の向こうの鼻をすする音が大きくなる。
「……駅前の本屋」
「え?」
「……駅前にできた本屋一体型のカフェ。今日は、そこに行くって言ってた」
スマホを耳から離し、紫崎は訝しむように画面を見た。
ゆゆはの目的が不明であり、意図が分からない。
「何が目的?」
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