ep.9 「恋人は、ただの関係だからな」(紫崎side)

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―――無事に昏と連絡が取れた。倉持さんとぎくしゃくした事情を話すと、婚活相談としてアドバイザーと個室で話ができるよう予約を取ってくれたよ。来週に話をする予定。  寺島まふゆからだった。 ―――良かったな。  裏返し、机においた。  ふらりと席を立ち上がり、天井まである書架ゾーンに行き、近隣のデートスポットが載っているであろう情報誌を手にした。パラパラとめくり、閲覧自由を確認し、席に戻ろうとすると、高いヒールの音がした。  規則的で、高い振動。  そのリズムの既視感から隠れるよう、先ほど腰掛けていた椅子に滑り込んだ。  いつもはひとつに束ねていた黒髪は解かれ、毛先は巻いている。つやつやと揺れる細い髪に、白のオーバーシャツではなく、甘めなシフォンブラウスに細いプリーツの入った薄緑のロングスカートを身につけている。普段は隠れている鎖骨がVネックであるため露出していた。程よく抜けた女の雰囲気。化粧がいつもより丁寧にされているためか、顔の印象がはっきりとしている。 ―――綺麗だ。  でも、安易に口に出せない。この格好を深沢のために整えたのかと思うと、その事実にうちのめられそうになる。 「ミーコ、ここ先月オープンしたばかりだよ。知ってる?」 「いえ、初めて来ました。なんだか、近未来みたいなデザインですね」 「近未来? あんまりこんなデザインないよねぇ」 「天井を見てください。植物と装飾ライトが一緒になっているのは初めて見ました。なんか植物園と本屋さん、カフェが混ざったみたいです」  軽快に会話を交わすふたりには、もう第三者が入っていけないような親密さがある。  ここまで来て、感情のままに居座っている自分がアホらしい。  大きくため息を漏らし、紫崎は深沢と海李子が席を決める前に立ち去ろうとした。 ―――その時。
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