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ep.10 ワーカーホリックに愛を囁けば
どこに向かうのかも分からないまま腕を引かれ、海李子の息は上がる。
「あのっ、紫崎くんっ、待ってください。いきなり店から連れ出されると困ります」
海李子より高い場所で紫崎が振り返り、見たこともない真剣な表情を見せた。
服装もシャツにシワがあり、ズボンは適当なジーンズで、統一感のない服装。
余裕のなさを示していた。
「……俺だって困ってるつーの。こんな、バカで、アホで、軽率な行動にびっくりだわ」
「え?」
「え、じゃねー」
片手で頬をぐいっと持たれ、口がアヒルになる。
「なにふんでふか!?」
焦りながら返事をすると、横切った通行人に笑われ、紫崎はすぐに手を離した。代わりに手を繋がれ、海李子は焦ったように手を振る。
「あの、これはもっと困ります。私、さっきのカフェに戻って、昏くんと話をしないとーーー」
「……離したく、ない。……これぐらい許してくれ」
耳まで赤くした紫崎は握っていた手に力を込めた。海李子は困りながらも、通りに目をやった。並ぶ店は駅から離れているためか徐々に住宅地に入っていく。
落ち着いて話さなければーーー、と、声をあげた。
「紫崎くんっ」
ぴたりと足を止め、紫崎は振り返った。
いつもの人を小馬鹿にしたような態度ではなく、照れに困ったような感情が混じっているように見えた。
「……なんでこうなったか説明してください。私は、……昏くんと初デートだったんですよ?」
「知ってる」
「知ってたんですか? どうしてーーー」
「あ〜〜〜、どうして、なんで、うるせぇな。俺はごちゃごちゃ言うのが嫌いだ。いいか、よく聞けよ。って、あ〜……、ってかこの状況で言いたい事、分かんない?」
「何も分かりません。なんで、連れ出すんですか? 二人に聞きたいことがーーー」
「お前、泣きそうになってただろ」
「え?」
「ったく。……お前には全部言わされる」
海李子は何を言われるのか、と身構える。
今までロボ子、色気がない、そして、嘘がつけない信頼できる女、とやっと同期として仕事ぶりを認めてもらえる立場になったと思っていたのに。そして、デートプランニングを一緒に考えてくれるようにまでーーー。
「みーこ、……俺はお前に惚れてる」
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