ep.10 ワーカーホリックに愛を囁けば

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「ん」  紫崎は着ていたシャツで海李子の涙を拭った。 「……むら、さき、くん、のシャツが汚れてしまいます」 「気にすんな」 「でも、」 「あー、めんどくせぇなぁ」  ベンチに腰掛けた海李子の頭を抱えるようにして、紫崎は腕に閉じ込めた。 「ほら、お前の感情を言え」 「でもーーー、」 「でも、じゃない。いつもの無表情がこれだけ崩れるってことは、思ってることがあるだろーが」  涙腺はゆるみ、先ほどの昏の優柔不断な態度が浮かんだ。 「私、昏くんにいっぱい初めてを貰って、」 「あぁ」 「それで、昏くんと一緒に過ごしていくうちに好きっていいな、感情って大事だったんだって、今更ながらに知って、」 「あぁ」 「知ってくれて嬉しかったし、話もいっぱい聞いてくれて、」 「あぁ」 「……でも」 「ん?」 「でも、昏くんは寺島さんのこと何も言ってませんでした。一昨日、寺島さんから話をしたいって言われたとき、とうとう退会されるのかな、それとももう一度、婚活を再開されるのかなって気が気じゃなかったんです。だけど、昏くんは、いつもの穏やかな感じで、連絡の調節していました。相談者が個室で話したいから、予約お願いします、って。どうして、昏くんは昔お付き合いしていたこととか、言わなかったんでしょうか? 何かやましいことでも、前はこんな事気にならなかったのに、自分がどんどん嫌な女になっていくみたいでーーー「みーこ」  紫崎の腕の力が強くなる。  昏とは違うふわっとしたように包む腕ではなく、力がこもった熱のある腕。知らない腕の中は、知らない香水の香りがしている。    こんなこと、他の男の人に言っても仕方がないのにーーー。
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