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海李子はそこから逃れようとするが、紫崎は頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「みーこ、恋人になっても、相手の全部は知ることができねぇよ。でも、説明はできる。深沢は説明を省いたか、そのときじゃないと思ったのか、それは本人しか分からない。後で、聞けばいい。だけどな、みーこを傷つけたことについては、ダセェなって思う」
「……紫崎くん、どうしたんですか? そんな、そぶり、その、えーっと」
「さっき言ったろ? お前のこと、好きになった。入社した時から、面白いヤツだとは思ってた。けど、この前、エリアマネージャーと経理部長に話をしてくれたときはすっげー嬉しかった。だって、女って嘘ばっかつくからさ。平気で試すこと言うし、疲れる。お前は正直で、真面目で、嘘つかねぇし、信頼できる」
海李子はふるふると首を振った。
「そ、れは、嘘をつかない女の人もいますよ。たまたまです。紫崎くんは魅力的な人です、なので、私ではなくもっとふさわしい方がーーー」
「俺がもう他の女に興味なくなったの、知ってるっしょ?」
「そ、れは……」
紫崎は顔を近づけ、恐る恐る海李子を見た。覗くように見られどぎまぎとする。好きなのは昏なのに男の人に免疫のないせいか、自然と頬に熱が集まる。
「魅力的って、例えばどこ?」
甘えるように聞かれ、海李子は困る。
「……頭の良いところと、仕事ができるところ、です」
「それは人としてだろ? 男として何も感じない? 深沢の男の部分に反応して、みーこが女になるんだったら、俺も同じ男なんだけど。俺はあいつと違って、めんどくせぇからもう他の女にヘラヘラ笑ったりしない」
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