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「悲しませるからだっつーの」
「……恋愛童貞振りきって、純情の暴走だよ? 紫崎の嫌いなダサくて熱苦しいやつだよなぁ」
「へーへー、かまわねぇよ。お前は肝心なところで鈍い。大事なものって状況が変わってもブレねぇからな。一番だけを守れ」
「……言われなくてもそうするよ」
余裕をなくした昏は続けて口を開く。
「ミーコ、ごめん。僕が悪い」
「……寺島さんの事ですか?」
「うん」
「……言ってくれなかったのはどうしてですか? 私にとって昏くんは初めての彼氏です。全部が特別で、何をするのにもドキドキして、緊張もして、困って……。でも、昏くんは今までの恋人とそんなことをいっぱいしてきたんですよね? だから……、私は何かしてしまいましたか?」
「違うよ」
昏のしなやかな腕に引き寄せられ、海李子はすっぽりと頭を覆われた。
否定されたことで、さっきまでの不安がゆるゆるとゆるみ、不安が氷のようにじわりじわりと溶けていく。
「……僕の中ではもう終わったことだから、言わなくても良いと思って、言わなかった。かえってミーコを悲しませてごめん。今はミーコと付き合ってるから、もうやり直せないって言ってきた」
「でもっ、寺島さんは、私の依頼人で、そのっ、ずっと力になりたいって思ってて……」
海李子は腕の中で昏を見上げた。
「仕事は大切です。……寺島さんの恋路を邪魔してしまった私は最低、です」
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