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「何が、貸しだよ。紫崎沼被害者の会が聞いたら、訴訟を起こされるよ?」
「え? なんですか?」
海李子は聞き慣れない単語を耳にし、じろりと昏を見た。
「あ〜、これも言ってなかった?」
「はい、聞いてません。なんですか?」
「え、っと、紫崎にフラれた女の子達がさ、結成してる会があってね……、その会になぜか僕が巻き込まれてて……。ほら、最近で言えば、荻原さん」
ゆゆはの名前が出て、海李子は会社のカフェスペースで昼食をとったときのことを思い出した。
「あ、あの時、荻原さん、これからのために昏くんに相談があるってーーー」
「その、これからって言うのはさ、紫崎にフラれた子達で飲み会をしてるっていうか……、傷の舐め合いっていうか……、簡単に言っちゃえば、紫崎よりスペックの高い男を捕まえるために結成された会って感じで、女の人の裏の顔がすごいんだよねぇ」
「……それで、荻原さんはあの時、改めて話をって言ってたんですね……。私はてっきり、昏くんの良さに気づいてーーー」
「うん、それはない。でも、不安にさせたね。ごめん」
「いえ」
こつんと昏と海李子の額が当てる。
「こーゆーときは、仲直りのキスをするんだよ」
近づいてきた顔を海李子はぐいっと押さえる。
「えーっと、ミーコちゃん? まだ怒ってるの?」
「怒ってはないですが、ここは外です」
「いまさら」
「今更ではありません。デートの続きが残っています。カフェを仕切り直して……」
海李子がゆっくりと昏の顔を見やる。
視線に込められた熱の気配を感じ取った昏は、海李子の手を握った。
「カフェに行く……、の選択肢は間違ってる?」
「……私が行きたいところ、分かりますか?」
昏は飛び跳ねた頭に手をやり、大きなため息を吐いた。
「いや、もう勘弁してください。僕、それに弱いんだよなぁ。知ってて、やってるの?」
「何ですか?」
「……いや、分からないならいいよ。きっとミーコにはずっと勝てないような気がするから」
「だから、何ですか?」
昏は繋いだ手を引き、カフェとは反対側に足を向ける。
海李子の耳許に口を寄せ、甘く低く、悪魔の囁きのように妖艶に鼓膜を揺らす。
「ケンカの後のあれって、すっごく気持ちいいよ?」
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