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部屋に入るやいなや縺れあいながら、廊下に服を散らし、浴室にふたりはなだれ込んだ。戯れるように唇を交し、お互いの服を脱がせてゆく。
「余裕ないって引かないでね、こっち」
浴室のシャワーを煙らせ、熱気と、密度と、喘ぎ声を閉じ籠める。
「ひゃあ、あんっ、まだそこ洗ってーーー」
「うん、わざとだよ?」
「んもぉ〜〜〜、もうダメですっ」
昏に見上げられ、きゅっとなる体と心に海李子は甘い声をもらす。
背を壁に預け、ふるふると首をふる。
「ダメです、ダメって……ーーー」
「ダメって言葉、本当はダメじゃない時も言ってるよね?」
「もう、昏くんっ……、日本語が通じてません……」
「うん、聞いてないからね」
ゆっくりと昏は海李子を抱きしめる。
耳許に口を寄せ、穏やかに、大切に言葉を選ぶ。
「ミーコ、大好きだよ」
「……昏くん、私も……、昏くんのことが大好きです。穏やかなところも、優柔不断なところも二人っきりになったら急に強引なところも。少し、鈍いところも。好きって、良いところばっかりを好きになるんじゃないんですね……」
海李子が見上げ、昏と視線が繋がる。
そのまま唇は引き合うように重なり、口づけをかわす。
何も身につけていない二人の身体はお互いを奥底で求め、静かな情熱でゆっくりと絡み合う。身を預けるように海李子が昏の肩に腕を回す。しなやかな体がそれを受け止めしっかりと抱き返した。
「ミーコ、まだ囁き足りないけどいい?」
「んもう〜〜〜、聞かないでください」
はにかみながら顔を見合わせる。
曇った浴室にふたりの影が重なって、合わさって、溶けるようになじんだ。
口づけをかわす音がゆるやかに荒い呼吸へ変化してゆく。
ふたりは視線と繋げ、穏やかに微笑み合う。
「昏、くん」
「うん?」
「……好きです」
「僕もだよ。……知ってる? もう好きだけじゃ足りなくなってるって」
海李子はしなやかな腕に唇を寄せる。この腕は安心とドキドキと、それからーーー。
「うん、知ってる。私も足りないから、」
腕を自分の腰に回し、海李子は背伸びをする。
唇がかすめあい、再び、行為を濃くしてゆく。
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