ep.10 ワーカーホリックに愛を囁けば

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*****  部屋に入るやいなや(もつ)れあいながら、廊下に服を散らし、浴室にふたりはなだれ込んだ。戯れるように唇を(かわ)し、お互いの服を脱がせてゆく。 「余裕ないって引かないでね、こっち」  浴室のシャワーを(けむ)らせ、熱気と、密度と、喘ぎ声を閉じ籠める。 「ひゃあ、あんっ、まだそこ洗ってーーー」 「うん、わざとだよ?」 「んもぉ〜〜〜、もうダメですっ」  昏に見上げられ、きゅっとなる体と心に海李子は甘い声をもらす。  背を壁に預け、ふるふると首をふる。 「ダメです、ダメって……ーーー」 「ダメって言葉、本当はダメじゃない時も言ってるよね?」 「もう、昏くんっ……、日本語が通じてません……」 「うん、聞いてないからね」  ゆっくりと昏は海李子を抱きしめる。  耳許に口を寄せ、穏やかに、大切に言葉を選ぶ。 「ミーコ、大好きだよ」 「……昏くん、私も……、昏くんのことが大好きです。穏やかなところも、優柔不断なところも二人っきりになったら急に強引なところも。少し、鈍いところも。好きって、良いところばっかりを好きになるんじゃないんですね……」  海李子が見上げ、昏と視線が繋がる。  そのまま唇は引き合うように重なり、口づけをかわす。  何も身につけていない二人の身体はお互いを奥底で求め、静かな情熱でゆっくりと絡み合う。身を預けるように海李子が昏の肩に腕を回す。しなやかな体がそれを受け止めしっかりと抱き返した。 「ミーコ、まだ囁き足りないけどいい?」 「んもう〜〜〜、聞かないでください」  はにかみながら顔を見合わせる。  曇った浴室にふたりの影が重なって、合わさって、溶けるようになじんだ。  口づけをかわす音がゆるやかに荒い呼吸へ変化してゆく。  ふたりは視線と繋げ、穏やかに微笑み合う。 「昏、くん」 「うん?」 「……好きです」 「僕もだよ。……知ってる? もう好きだけじゃ足りなくなってるって」  海李子はしなやかな腕に唇を寄せる。この腕は安心とドキドキと、それからーーー。 「うん、知ってる。私も足りないから、」  腕を自分の腰に回し、海李子は背伸びをする。  唇がかすめあい、再び、行為を濃くしてゆく。
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