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「うっわ」
紫崎が顔を歪め、海李子はそれを見て笑った。
「女子の制服に口出すとかもう経営者気取りですか?」
「……経営者」
「ちげーよ。ただ、俺が女なら毎日決まった制服でもしゃれてるもの着れたらいいだろって思って。婚活のアドバイスにカウンターにガチガチの化粧や服着てる女がいたら、男はビビるんだよ。女が武装してるように見えんの。だから、自信がない男は場違いだって思う。大体、婚活自体の敷居が下がってきたとはいえ、結婚願望があっても、男が残る時代だぞ。ガツガツした女が増えたら、男は引くっつーの」
「……すがです」
「え?」
「さすが、紫崎くんです」
海李子はフロアに響き渡るほどの音で拍手をした。
「……せんぱい、目を輝かせて手を叩いてる場合じゃないですよ」
「いえ、荻原さん。紫崎くんがこんなに仕事に対して向き合うなんて奇跡です。すごいですっ、男目線でも婚活について考えているなんて、経営者に向いているかもしれません」
「……向いてるも何も……、一志くんは経営者一族ですよ? マリッジフロアに出入りしているナラサキグループは親戚ですし。スペック最高って、せんぱいには言ったじゃないですか?」
紫崎は、知ってたのか、とゆゆはに顔を向けた。
「あー、せんぱい、仕事好きですもんねぇ……、もしかして、共同経営者とかそそる言葉だったりします?」
ゆゆはは冗談を口にするように海李子を見た。
「共同経営者……」
呟きながら、こぢんまりとした結婚相談所でカウンセリングを行う自分の姿を想像し、海李子は自然と頬が緩んだ。
「ちょっと、朝から何の話?」
穏やかなゆるい声が海李子の野望にまみれた妄想を断ち切った。
「深沢さん」
「昏くん」
「ミーコ、おはよう」
「おはようございます」
「何の話?」
昏は軽く頭を振って、雨雫を払った。ティールブルーのシャツにぽつんぽつんと雨の残りが乗った。
「倉持せんぱいが共同経営に興味があるって話です。一志くんが仕事にやる気を出せば、そんな未来もなきにしもあらず?」
「なきにしもあらずって、ゆゆは適当なこと言うなよ。俺は仕事が楽しくなってきただけで、そんなつもりは……」
紫崎はふと口を閉ざし、海李子に顔を向けた。海李子はその意図が分からず、無表情で首を傾げる。
「……みーこ、仕事好きか? なんて愚問か」
「あ、え、はい。好きです」
紫崎は腕を組み、ずいっと海李子に近寄る。
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