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眼はとろんとし、酔いが回ってきたのかいつもの敬語はゆっくりになり、甘えるように響く。
「うん、何?」
昏はそのギャップに戸惑いながらも、頷いた。
「……実は高校時代に8組のカップリングに成功したんです。中には無理目な片想いのケースもありました。でも、その先輩の行動パターンを調べて、少しづつ接点を持てるように友達と考えました。バレンタインデーにチョコを渡したり、部活の差し入れを一緒に持って行ったり、友達と一喜一憂しました」
「ふーん、……青春だねぇ」
「はい。青春しました。友達が男で、先輩が女で、いつものパターンと逆で苦戦しました。必死で追いかけたので、一時期レズ子って呼ばれたこともあります。だから、今のロボ子なんてあだ名は可愛いぐらいです」
ロボ子は両手に持っていたグラスをぐいっと口に運ぶ。ごくごくっと喉を鳴らし、ぷはぁと潔くグラスを離す。
「それぐらい、仕事が大好きです」
と、誇らしげに笑う。
豪快なのに、頬の色を紅に染めて漏らす吐息には、妙な色気があった。
自分しか知らないであろう彼女の一部を手に入れたような気がして、昏の視線は釘付けになった。
……この人、仕事に一生懸命で可愛いなぁ。
自分が損をしても、それを無表情で流し、むしろ生きがいだと言ってのける不器用さ。
ロボットどころか、素直で真面目な性格が裏目に出ただけで、本当は人の為に動ける優しさを持っている。
昏の胸にじぃんと、熱を持った感情が芽吹く。
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