ep.2 その男、プライベート重視です(昏side)

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「昔からそんな感じだったんだ……」 「深沢くんは、どんな学生でした?」  そう聞かれ、 「僕は……、倉持さんみたいに人の為には動けないよ」  と、つい本音をこぼした。  大学時代はバイトと勉強と恋愛と、バランスの取れた生活を送り、何かを必死に応援し、誰かの為に動いたことなんて数えるぐらい。  彼女は居たが、10歳年上で社会人と学生と決定的な環境の違いで、未来のビジョンが描けなかったのか、大学を卒業する前に振られてしまった。大好きだった彼女を、もう一度振り向かすために必死にはなれず、その力は自分の感情を抑えるために使った。  相手が自分のことを好きっていう“確信”がないと臆病になってしまう。  昏がロボ子の一途さに口を閉ざすと、 「深沢くん……、」  と、ロボ子は昏をうるうるした瞳で見上げた。  艶っぽく見つめられ、昏の心臓が忙しくなる。  まさか、いや、でもな、と何も言われていないのに何故か焦る部分と、やけに冷静にこの後、ベッドで横になる彼女を想像している自分が居て、妄想を振り切るように頭を振った。 「えっと……、何?」  穏やかに笑って、動揺を悟られないようにする。 「あの、失礼だと分かっているんですが……」 「……うん」 「深沢くんは、彼女いた事ありますよね?」 「そうだねぇ、……今はいないけど」  昏は乾いた口に、水を運ぶ。 「じゃあ、経験も豊富ですよね?」 「豊富じゃないよ……、人並みかな」 「人並みですか……」  ロボ子は視線を外さず、そのまま昏を見つめ続ける。  紫崎の読みは外れている。この子が“ない”って?  酔いに混じって吐息のように漏れ出る色気に(あらが)うけれど、目線を(そら)せない。仕事とプライベートでのギャップが激しすぎる。 「彼氏はどうすればできますか? よかったら……、私に恋愛を教えて欲しいです」  真っ直ぐで誘うような瞳。理性で抑えているものが一気にゆらぐ。 「……えっーと、僕?」
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