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ひとつにまとめた黒髪はぶんぶんと振れ、背中に居る塩顔に容赦なく当たる。涼しい瞳はそれを穏やかに受け流す。ブラウンアッシュの髪は眉下でゆるく整い、清潔感のある香りが漂う。ティールブルーのYシャツは袖を軽く折り、杢グレーのスラックスはラフに着こなされている。依頼人と電話でしか対応しない彼は、オーラも服装も肩の力が抜けていて、周りに圧迫感を与えない。
海李子がこんなに近くで深沢昏の顔を見たのは久しぶりだった。
化粧の方法をSNSの情報から見よう見まねでアップデートし、なんとか流行についていこうとしている海李子の努力など虚しいと感じてしまう程、透明感のある肌。
女として遺伝子レベルで負けている気がする。
「深沢くんっ」
「あーあ。大きな声を出すから……、ほら上を見て」
「え」
見上げると、さっきまでイチャついていた二人がこっちを見ている。
「ロボ子、……深沢とデキてんの?」
紫崎がニヤニヤと愉快そうに笑う。
……屈辱だ。
先にふしだらなことをしていたのは紛れもなく、そっち。
「違います」
海李子は深沢と距離を取る。
「萩原さん。紫崎くん。ここはラブホではありません。仕事場でイチャつかないで下さい」
弾かれたように二人は反応し、深李子を見た。
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