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「ロボ……じゃない、倉持せんぱい、見てました?」
「見てたつーか、……見惚れてたんじゃね?」
汗をにじませながら階段を昇り、うんざりするバカップル(死語)のラブシーンを見せられ、疲労度はさらに上がる。
「今は、就業時間です。萩原さんは、カップリングが成功したペアの希望に沿った式場のパンフを取りに行き、紫崎くんはオンライン相談の回線チェックをするはずでは?」
「先輩、よく覚えてますね」
「……つーか、普通、同僚のラブシーンを見て、気まずかったりするんじゃねーの。ロボ子、ベロチューって見たことも、したこともないだろ?」
紫崎は軽薄そうに笑い、癖のない黒髪を揺らす。
海李子とは同期で、仕事の業績はそこそこ。入社時の評価ではトップだったらしいが、実際の業務でそれを発揮せず、別の話題で社内を賑わしている。内容は不特定多数の女性との噂で、彼はいつもその揉め事の中心に居る。外見は、学生上がりの爽やかさと可愛さを併せ持ち、その特徴を生かして節操がない犬のように誰にでも尻尾を振って愛想を振りまく。
手足はすらりと長く、適度な筋肉もあり、顔も、頭もいい。
女癖が悪い、という一点を除けば、ハイスペック物件。
ざっくり言うなら、甘さと苦さを同時に味わえるちょうどいいクズ男、だ。
自分が本命になれば彼を変えることができる、と勘違いした女たちが、順番に紫崎のセフレとして登録されていく。入社して三年、その様子を海李子は薄目に見ていた。あまりにもあからさまなその行動を注意しても、改善されないので、最終的には無視しようと決めた。
―――しかし。
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