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海李子は紫崎の隣で、恥ずかしそうに体を小さくする荻原ゆゆはに目をやる。ふわふわな猫っ毛はハーフアップに纏められ、丸襟のシャツは大きな胸を包んでいる。愛らしい見た目で人懐っこい彼女は、海李子にとって初の後輩だ。
彼女がまんまと紫崎沼にハマったのを見て、無視ができなくなった。これは大変だ、となんとかその沼から救おうとあの手この手を模索しながら、手を差し出してきた。その手は虚しくも、何度もスルーされてしまったけれど。
見事なグズ発言を押さえた、今、紫崎沼から助け出す絶好のチャンスだったのに。
……この男に邪魔をされた。
後ろに居る深沢は柔らかい表情でにこにことしている。癒し系、和む、と朗らかな彼を形容する同僚の言葉を聞いていたが、海李子にとって見た目は関係のない。ネクタイの柄がバンザイしているペンギンで、横目に欠伸をしている一匹を見つけ、つい油断しそうになる。
うっかり癒されそうになり首を振る。
今は深沢の相手をしている場合ではない。
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