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「あ〜、……物足りねぇ。でも、ロボ子じゃなぁ……」
紫崎は海李子に向かって薄く笑う。
「なんですか。物足りないなら、仕事をしたらどうですか?」
「いや、仕事、仕事って口を開けばそればっかで、生きてて何が楽しいわけ?」
「仕事が楽しいから、生きているわけですが」
「はぁ? 意味わかんねぇ」
紫崎は海李子の顔に手を伸ばし、片手で両頬をつまむ。
「なにふんでふか!?」
「ロボ子、お前ってほんっと色気ねぇーーー」
「はい、そこまで。ほら、もう課長が来る」
深沢が紫崎の腕を持つ。
1、2、3、4、5。
早く離して欲しいと、海李子は無で数字をカウントすると、二人は吹き出したように笑った。
紫崎はくしゃりと笑い、首を傾げる。
「その死んだ目、どうにかなんねぇの? 少しは困れよ」
「表情は仕事に関係ありません」
「……可愛くねぇ」
もういいや、と紫崎は手をひらひらと振って、階段をめんどくさそうに降りて行った。
「僕が口を塞いだ方が焦ってたね」
しなやかな腕を組み、深沢がゆっくりと口を開いた。
「いえ、あれは単に苦しかっただけです」
「そう。……じゃあ、色んな顔を見るためには、もっと虐めたらいい?」
海李子の顔は一周回って、無から能面になる。
二人きりになると、深沢は急に強気だ。さっきまでの穏やかさは嘘のように、表情と声のトーンが一気に低くなる。
隠していた男の顔を見せ、妖しく艶然と笑う。
それはある一件でこうなってしまったのだけれど、仕方ない。
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