418人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ、聞こえなかった? もう一回、口を塞いで欲しい? そういう趣味はないけど、ミーコが望むなら」
「業務以外の事は話さないでください」
「冷たいなぁ。さっきの荻原さんへの熱意はどこに行ったの? 紫崎の円グラフもあるってことは、紫崎も観察した?」
深沢はタブレットをひょいと奪いタップする。
海李子と深沢の身長差は5センチあり、僅差であるが、腕の長さが違うため、海李子が伸ばした腕は空をかすめた。深沢は先ほどとは別のP D Fを勝手に開き、紫崎一志の名前を選ぶ。
「タバコ休憩とか、コーヒー休憩とか、居眠り休憩とか、ガム休憩とか、セフレ休憩とか内容が詳しすぎ」
「荻原さんに目を覚ましてほしくて、紫崎くんがいかに仕事をサボるグズか、女の人に節操がないかを客観的に数字でーーー」
ぐいっとタブレットを押し付け、深沢は海李子の顔を見つめる。
「生き生きしてるね。紫崎の観察はそんなに楽しい?」
「楽しいっていうより、紫崎くんを追いかけるのは忙しいです。この円グラフは私の傑作です。数分も違わずに作れていると思います。完成度が高く、自分でもいいものが出来たと思っているので、最終的には課長にも見せようと思っています」
「なるほど。傑作、か」
深沢はタブレットを取り返し、淡々とページを開く。
紫崎一志のデータを消去しますか、に辿り着き、指はためらいなく「YES」を選択した。
最初のコメントを投稿しよう!