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一
一
冷たい風が吹く、寒い冬の日だった。
大きなガラス戸の向こうで、小さな黒猫がこちらを見つめている。
女子高校生の朋(とも)はその子猫を見つめていた。
その子猫がいる保護猫カフェに入ろうか迷っていたのだ。しばらく戸の前でぐずぐずしていると、ガラス戸の方が先に開いた。
「どうしたの朋。早く入りなよ?」
幼馴染の少年、唯則(いのり)が不思議そうな顔で声をかけてくる。唯則はカフェの店長の息子で、よく店の手伝いをしていた。
「うん。そうね……」
朋は持っていた学校カバンで足元を隠す。だが、唯則は目ざとい。朋が隠したがっているものを見逃さなかった。
「朋、その靴、どうしたの」
朋は片足には学校指定の革靴を履き、そしてもう片足には学校指定の「上履き」を履いていたのだ。
「チッ、相変わらず細かいんだから、唯則は」
「舌打ち⁉」
小学校が同じだったよしみ、そして朋が猫好きだったこともあり、高校が離れた今でも朋と唯則は気の置けない間柄だ。
平日の四時頃だからか、店に他の客はいない。朋は先ほどまで見つめあっていた黒い子猫を抱き上げるとカフェの中へ入っていく。
「子猫(ソイツ)、どうしてこんなところに」
唯則が不思議そうな顔をした。
猫たちのいる部屋は入り口と区切られている。猫は出入口まで行けないようになっていた。
そんな唯則に構わず、朋は入り口でポイポイっと革靴と上履きの両方を脱ぎ捨てる。唯則が慌てて靴を下駄箱へ入れた。
「…………朋、もしかして」
「あーあ、高校ではうまくやれてると思ったんだけどなぁー」
朋はため息を付きながら、いつもの定位置、キャットタワー隣の席に座った。
もちろん、朋は革靴を半分なくしたわけでも、間違って片方上履きを履いてきてしまったわけでもない。
帰ろうと思って下駄箱を開けたら、革靴が片方無くなっていたのだ。
探しても無駄だろう。そう朋が直感したのは理由がある。朋は最近、同級生から無視されていたからだった。
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