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ガラス張りのアコーディオンドアの内側で、小さなカフェテーブルに開いた冊子の綴じ目を片手で押さえ、日向はイスに背を預けている。
向かいのイスには、彼が通学に使っているレザーバッグが着いている。
黒い釦の白いシャツ、グレーのジレ、よく見れば学校指定の黒いパンツは、教室にいた時と変わっていない。
記憶に新しい背格好はそれでも、大学生どころか社会人のように、橋崎の目に映った。
よほど長いこと立っていただろうか。
視線の糸を手繰るように、日向の横顔はゆっくりと橋崎を仰いだ。いつもやんわり眠たげな目を、ほんのわずかに瞠り、微かに唇を笑わせた。
運び出した足が店のドレスコードに触れる心配はしなかった。
身バレ防止を兼ねたサマーニットもキャンバストートも、いかにも高校生なデザインではないつもりだし、席の埋まった店内には大学生らしき、勉強中の人たちも見られる。
ただ、消しゴムのカスをばら撒いているテーブルはない。
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