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「何も食べないの?」
「噛める物はね」
そういえば、日向が食事しているところを見た記憶はない。昼休みはマグボトルを机に置いてスマホか昼寝している。
「腹減らない?」
「空いてるよ。でも慣れかな」
「何時までいる?」
ふと日向は視線を宙に浮かせ、店内を一望しつつ冊子の下からずらせたスマホに、目を下ろした。
「俺は8時過ぎまで。光に連絡しなくていい?」
「え」
と、声を出してから思い当たった。ひかり、神戸の下の名前だ。
だが橋崎の中では、バイトの連絡を交わす対象は『中野』だ。
「着いたら教えろって言われてない?」
「あ、うん。駅着いた時に入れた」
聞き入るような聞き流すような仕草で日向は頷き、マグカップを口に運んだ。
沈黙が流れ、店内に小さく流れている音楽に初めて気付く。
もっと色々、日向には聞いてみるべき事柄がある。だがなかなか糸口が見つからない。二人きりで話すのだって、不思議と彼があまりそう感じさせないだけで、今が初めてだ。
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