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「最近バイトしてる?」
ひとまずこれが今現在、選択できる質問だろうか。
日向の浮かべた微笑は困っていない。
「気が向いた時にしてるよ」
「いつからしてる?…聞いていいかわかんないけど」
「大丈夫だよ。去年から」
「半年くらい?」
「うん」と、日向は宙に視線を一巡させた。「もう少し長いかな。夏に始めたから」
「…神戸くんに誘われて?」
「うん……そういうことになるのかな……俺から頼んだような気もする」
ゆるゆると首を傾げ、マグのハンドルを撫でながら、いつ再起するかも知れない風情で日向は沈黙した。
それを見ていた数十秒で、30分くらい経ったような心地を橋崎は覚えた。
「きっかけとか、聞いても平気?」
ゆっくりと視線を交わらせ、日向は首を傾げた。
「どこからがきっかけなんだろう……まず、俺と光はD組に入ったよ」
廊下を染める西日の色が目の奥を射った。
上京してきた橋崎には、行き交う全部が知らない顔だった。すれ違う少し背の高いブレザーや、ずいぶん小柄なフーディーも、どこへ入っていくのか目で追ったりしなかった。
「初日に一人ずつスピーチすることになって…どこのクラスもしたのかな」
「え、と。とりあえず俺いたB組は、席立って名前だけ、だったと思う。出身中とか言う人もいたけど、少しだった」
だからほっとしたことも、橋崎は思い出した。
地元民には人気のない小さな公立校、他区や他県からの流入が多く人間関係が薄いという口コミを見て、入学を決めてもいたのだが。
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