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9 槇
そんなことってある?
急展開すぎんだろ。俺は置いてきぼりで、聡太の感情だけを他人から聞かされて、勢いで啖呵を切っちまったけども。
俺はいつもそうなんだ。前の彼女の浮気相手と対峙した時も、後先考えず手が出てしまった。よく考えれば、その後もっとコワイ人たちにボコボコにされる可能性だってあったってのに。
おまけにどうしたものか俺は今、聡太の手を掴んでいる。
止まるタイミングを見失って、カフェを出てからずっと歩き続けている。聡太は俺の手を振り払うこともせず、同じスピードできっちりついてくる。信号にひっかかったら、どうすればいいんだよ、ちくしょう。
で、考えていると、だいたいそうなる。
点滅している青信号に間に合わず、俺は横断歩道の直前で急停止した。
「うわっ」
聡太は俺の背中に頭ごとぶつかった。俺は黙ってその衝撃を受け止めた。自然に繋いでいた手が離れる。
「槇・・・?」
聡太は背後からひょっこり顔をのぞかせ、俺の顔色を伺った。俺は目だけを動かして、聡太と視線を交わしてみる。
言葉が出づらい。
そもそも俺は俺の考えにまだ納得行ってないのだから。
すると聡太はおずおずと言った。
「あの・・・ごめん・・・な、変なことに付き合わせて」
「・・・全然」
「あの・・・さっきのこと、なんだけど」
聡太の声は震えて聞こえた。
信号待ちで話すようなことじゃない。これはもう少し真剣に、向き合って話すべきことだろ?なんて、柄にもなく真面目な考えが頭を過ぎる。
「それは帰って話そう」
「槇・・・」
信号が青に変わる。
俺は歩き出した。ふと振り返ると、まだ聡太は歩道の端で立ち尽くしていた。
俺はそこまで戻り、若干乱暴に聡太の手を取った。
怒ってはいないけれど、何故か無駄に大股で歩いた。
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