6 聡太

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6 聡太

「ただいまー」 「おー、おかえりー」 「あー疲れた・・・・・・聡太(そうた)?」 「うん?」 「なんか・・・・・・変な顔してね?」 「・・・そう?今、仕事の打ち合わせしてたからかな」 「そっか。ならいいけど」 (まき)は実は、とんでもなく勘がいい。今までも何度か、俺の異変に気づいてきた。しかし今回ばかりは隠し通したい。ただでさえ告白しちゃって、それでもルームシェアを続けてくれている槇に、余計な心配をかけるわけにはいかない。 槇は機嫌良くスーツのジャケットを脱ぎ、洗面所に向かった。手を洗う水の音と、槇の鼻歌が聞こえてくる。俺は寒くもないのに、Tシャツの上に首の詰まったトレーナーを重ねて着た。 洗面所の槇に向かって、俺は呼びかけた。 「今日の昼、カレー作ったんだ。槇、食べる?」 「カレー?!食べる食べる!」 「あ、でも、これ・・・」 槇の鞄の隣にはコンビニ弁当の入った白いビニール袋が置いてあった。手を洗い終わった槇は、当然のように言った。 「ああ、それ明日の朝に食うからいいよ。それよりカレー食べたい。聡太のカレーうまいもん」 「・・・そう?じゃあ温めるね」 さらに上機嫌になった槇は軽い足取りで自分の部屋に着替えに入った。俺はトレーナーに関して何も言われなかったことにほっとして、カレー鍋に火をかけた。 「やっぱうまい!おかわり、ある?」 「あるよー」 「カレーってさ、好みあるじゃん?俺、聡太の作る味、めっちゃ好きなんだよね。いくらでも食えるわ」 「そんなに誉められるとしょっちゅう作っちゃうなあ」 「いいよ、大歓迎!あ、つか、今日何曜日?」 「水曜日」 「毎週水曜日、カレーの日とか」 「・・・・・・マジで?」 「あ、ごめん、面倒だよな」 「いや、全然!むしろ作ったら、食ってくれんの?」 「もう、カレーのためにめっちゃ急いで帰ってくる」 「じゃあ・・・・・・作っちゃおうかな・・・・」 「やった!」 槇のこういうところに、俺は簡単に絆される。自分で食ってもそこまで絶品とは思わないが、槇に言われるとこれは旨いのでは?と思ってしまう。 我ながらチョロい。 「ときに聡太」 「うん?」 おかわりのカレーを注いで持ってきた俺に、槇は真剣な顔で話かけてきた。 「暑くね?」 「えっ?」 「すげー汗かいてるけど」 「あ・・・カレーのせいかな?今日、辛めに作ったから」 「・・・・・・いや、トレーナー脱げばいいじゃん」 「はは、そうだよね、うん」 ばれた。 そりゃ、室内でも24℃ある夏。どう考えても長袖のトレーナーは不自然というもの。俺は立ち上がって、出来るだけ自然にトレーナーを脱いだ。 「あ~涼しい」 「そりゃそうだろ」 「あはは」 俺は笑いつつ、襟元の布を軽く引き上げた。槇は二杯目のカレーをぺろりと食べきって、こう言った。 「・・・・・・聡太」 「ん?おかわり?」 「いや、さすがに腹一杯。そうじゃなくて」 槇はじっと俺の顔を見つめた。いろいろな意味でドキドキする。 「なんか変だぞ。どした」 「・・・変?」 「うん。変」 「別に何でもないよ」 「・・・本当に?」 「・・・うん」 「・・・なら、いい。でも」 「?」 「言いたくないことならかまわないけどさ。・・・俺でなんか出来ることあるなら、相談にのるけど」 槇がいくら勘がいいと言ったって、ちょっと良すぎる気がした。まさか?この間の予感が的中したなんてことは・・・ 「槇・・・?」 「うん?」 「えっと・・・なんか・・・」 「・・・・・・」 「いや、なんでもない。片付けるね」 「・・・聡太」 カレー皿を持ってキッチンに逃げ込もうとした俺の目の前で、槇が立ち上がった。思わず俺も立ち尽くす。 「ま・・・槇?」 「話がある。ちょっと座れ」 「な、なんだよ・・・」 「いいから」 槇は俺の手から皿を奪い取り、さっさとキッチンに運ぶと、俺をリビングのソファに座らせ、その隣に自分も腰を下ろした。 射るような視線を向けられてたじろいだ俺に、槇は言った。 「聡太。おせっかいかもしれないけど」 「・・・・・・」 「それ、どうした」 槇の指が、まっすぐに俺の首もとを指す。 引き上げた襟元では隠しきれていなかった痣。俺は無意識に片手でそこを覆い、笑って誤魔化した。 いや、誤魔化すつもりだった。 「ああ、これ?ちょっとひっかけて・・・」 「そんなきれいに、まるく一周ひっかけることあるか?」 「・・・・・・えっと」 「お前のプライベートに口出すつもりはないけど、それは・・・ちょっと見過ごせない。聡太が納得した上でのことなら・・・何も言えないけどさ」 その気遣いに満ちた言葉に、俺の心はちくりと痛んだ。槇になら、話せるかもしれない。もちろん言えば心配もかけるし、親身になってくれるのは目に見える。結果俺はもっと槇を好きになってしまう。 それでも俺は言った。 「・・・じゃあ、少しだけ聞いてくれる?」 「おう」 俺は勇気を出して、例の「槇」という名字の男との間にあったこと、さらに現在進行中の困ったことを告白することにした。

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