コドウ

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「なんだよ!お前らいったいなんなんだよ!」  命の危機が突き立てた刃が喉元に触れるぐらいまで迫ってきて、やっと大きな声を出すことができた。俺の大きな声に老婆が少し怯える様子で後ずさった。爺さんが俺の腕を締め上げた。俺は激痛に顔を歪めた。それを見て老婆は笑った。  老婆は再び俺に近づき、今度は顔ではなく俺の胸のあたりをヒタヒタと触った。老婆に触られたワイシャツが土混じりの血で赤黒く染まっていった。 「コドウコドウコドウ」  老婆は呪文のようにブツブツ呟きながら俺の胸を触り続けた。やがて俺のシャツの胸のあたりに、楕円の赤黒いシミが出来上がっていった。  それは、まるで心臓がむき出しになったかのように見えた。  老婆はゆっくり赤黒い楕円のシミから手を離すと心底嬉しそうに笑った。そして、おもむろに肩からかけている抱っこひもの膨らみに手を突っ込んだ。 (な、なにする気だ)  老婆は膨らみに乱雑に手を突っ込み、まさぐった。抱っこひも、膨らみ、とくればその中にいるのは赤ん坊以外に考えられなかった。赤ん坊がいるのになんて乱暴な、と俺はその狂気に怯えた。そして老婆は何かを掴んだかと思うと手を突っ込むときの勢いそのままに手を引っこ抜いた。老婆のその手には赤ん坊の足が握られていた。服を着ていない赤ん坊を老婆は足だけ掴んで乱暴に抱っこひもから引き抜いたのであった。 「ひゃゃゃぁゃゃゃああああ!」  俺は半狂乱で体をジタバタさせた。
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