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眠れ、眠れ、幼子よ。ほしに生れた小さきいのちよ。
この世に父なる神様なるものがあるというのなら、もう、その手を放し駆け出すときは来る。
眠れ、眠れ、幼子よ。ほしに生れた哀れないのちよ。
止まってはいけない。駆けだした先に何があろうと、もう、おまえたちを護るものなどないのだから。
陽が沈んでいき、落ちそうな星々が輝く。人々が栄えた先に夢見た空は冷たく大地を引き離して、昏がりに広がっていく。
星々に、天に愛された子どもたちはいつのまにか姿を消し、ひび割れた大地には静寂ばかりがあった。もう伝承のブリテンの王だって、魔術師だって、ヴァルハラの乙女たちだってこの地にはいないだろう。
ひとつの世界が終わる。
それは唐突なこともあるし、こうして、何十何百憶もの時間を費やすこともある。いのちがあった星はここだけじゃないけれど、神というものを信じて手を伸ばし続けたいのちがあったのはここくらいかもしれない。なんて、なんて長い長い幼年時代だったのだろう。愛しき、ほしに生れた子どもたち。
夜を迎えて青白く光る塔に立ち、真っ暗な大地を見下ろす。砂に沈んだ城を見やってこの地のかつての主を想う。
最期に、見届けるものだけが決めてやれることをしてやらなければ。
「きっとこの世界は幸せでした。さあ、お眠りよ。子守唄を謡ってあげよう。せめて最後によい眠りを、おやすみなさい」
白い衣を纏い、夕暮れのような髪をして、夜明けの瞳をした少女は子守唄を紡いだ。静かに、静かに。このほしが、世界が微睡み眠りに落ちるまで。
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