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Ⅰ 覚醒
……目が覚めた。
橙色のひかりが、視界に満ちる。
50年ぶりの、ランプの鈍いひかり。
おぼろげな記憶だが、大事な人を見つめながら、眠りに落ちた、気がする。
そんな事をぼんやり考えていたら、寝台の傍からしゃがれた女の声が飛んできた。
目を向ければ、見知らぬ痩せこけた老婆が椅子に座り込んで、俺を見ていた。
「目覚めたかね」
「あなたは?」
「お前さんの世話を、言いつかった者だよ」
「そうですか……。で、予定通りうまくいったのですか、俺の覚醒は?」
「ああ、予定通り、あれからきっかり50年後に、お前さんは目覚めたよ」
そう言いながら、椅子を立った老婆が、俺の顔を、濡らした布で拭く。
「冷たくて気持ちいいな、でも、まだなんだか、頭がぼんやりしているが……」
「当たり前だよ、覚醒したからといっても、なにしろ、お前は50年の時を眠りこけていたんだ。まだ、時を同じくして復活した魔力に、身体が追いつかない状態なのだろう。あと数日は安静が必要だよ。それまでなにも考えず、この洞窟の中で大人しく横になっていると良い」
しわくちゃの顔の老婆は、手を休めること無く、横たわる俺にそう語りかける。
そこで、漸く俺は大事なことを思い出す。
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