Ⅳ 再会

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「最期まで、馬鹿な女だったなぁ!」  ユラを胸に抱く俺の鼓膜を、黒魔術師たちの耳障りな笑い声が叩いた。 「……教えてやらぁ。難民としてこの国に流れついたその女はな、逃避行の途中で毒草をも、飢えのあまり、食糧として貪り食べたんだとよ。そう、お前が飲んだセセラの実もだ。そして、その量があまりにも大量だったので、その女の身体には毒への耐性が付いたらしいんだよ。だからお前のように、」  俺は呆然とした。  ユラが「眠りの加護」を受けられなかったというその事実に。そして、50年にも及ぶユラの孤独が胸によぎる。ちぎれるような痛みに、俺の心は張り裂けんばかりに痛み、口からは知らず知らずのうちに嗚咽が漏れる。  そんな俺を見て、黒魔術師どもの卑しい高笑いは、いよいよ声高に響く。 「もっと、気の毒なことも、教えてやろうか? お前が暢気に寝ている間にも、俺たちは、何度もこの村を襲ったのさ。それをいつも邪魔しやがったのはこの女、ユラだ。俺らはその度にユラを捕えては、時に殺すより酷な目に遭わせたもんだ。けど、たいしたタマだよ、この女は。どんな責め苦を味わわせても、けっしてお前が眠っている居場所については、白状しなかったっけな」  俺の慟哭に呼応するように、赤く染まったユラの胸元から、ひらりとなにかの干からびた蒼い花弁が落ちる。俺は、驚くほど細く軽いユラの身体を花弁ごときつく抱きしめた。  ユラの血に汚れた顔からは、あの遠き日の、人なつっこい、ころころと笑う少女の面影が、微かに、だが確かに見て取れる。俺はユラの身体を地に降ろし囁く。50年来の、伝えられなかったユラへの溢れ出る想いを、再度の、その挨拶に込めて。 「おやすみ、ユラ……」  そして、大きく息を吸い、地べたに転がっていた彼女の魔杖を拾い上げると、黒魔術師の一群に向かって俺は、身を躍らせたのだ。  喉奥から、獣のような咆吼を絞り出し、絶叫しながら。
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