Ⅰ 覚醒

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「ユラも目覚めたのですか?」  そう言いながら俺は懐かしい洞窟のなかを見渡す。だが、あの時と違って、寝台はひとつしかない。俺が眠る前には、たしか、隣にはもう一つ寝台があって、そして、そこには俺と同じように、清潔な毛布にくるまったユラがいて……。  すると老婆はすっと、俺の身体の上から身をひき、小さな低い声で囁いた。 「いいや」 「では、まだ覚醒せずに眠っているのですか? 何処か別の場所で」 「いいや」  ぼんやりとした意識の底で、はっきりとした悪い予感が鎌首をもたげる。俺は溜らず、老婆に語気を強めて問うた。 「では、ユラはどこにいるのですか?」  対して、老婆の答えは明確だった。 「ユラはもういない」 「……え?」 「ユラは死んだ。お前が眠りについてから、すぐのことだ。セセラの実が身体に合わなかったんじゃな」  一気に俺は真っ暗な絶望という名の井戸の底に落とされた。  なぜ、と声を出そうにも言葉にならない。  そうこうしているうちに、衝撃でなにも口に出来ずにいる俺を置いて、老婆は洞窟の外に消えていった。
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