Ⅱ「眠りの加護」

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 師匠は落ち着き払って、満足げに答える。唖然となっている俺とユラとは、全くもって好対照だ。 「……私たちを殺すおつもりですか」  ユラが不安そうに眉を顰めながら言う。それに対し、師匠はゆっくりと首を横に振りながら、漸くその真意を語り始める。 「そうではない。良いか、よく聞け。全ては、お前たちにこの難局を生き延びて欲しいためが為の処置だ。それゆえ、ダズとユラには、セセラの実の効用で一旦仮死状態になって「眠りの加護」に身を預けてもらう。そうして、その効用が切れるまで、村の奥にある洞窟で眠りに就け。仮死状態になり眠っている間は、身体の成長も止り、その身から流れ出る魔力も一時的に消える。そうすれば、敵にお前たちの存在を感知されることも無い」  ようやっと師匠の意を汲んだ俺たちは、ほぼ同時に大きく息を吐いた。しかしながら、どれだけの時間、俺たちは「眠りの加護」に身を託すことになるというのか。  暫くの沈黙の後、俺は尋ねた。 「眠り続ける月日はいかほどになるのですか」 「だいたい、セセラの実の効用は50年が限界だとされている。だから……、信じるのだ。50年後、効用が切れてお前たちが覚醒する頃には、今よりは少しでもましな、平和な時代になっていることを。それを信じて、いまは、ただ、「眠りの加護」に身を任せて欲しい」  師匠の表情は、真剣この上なく、その声はどこまでも懇願に近かった。  ……俺とユラは戸惑いながら顔を見合わせたものの、最終的にはその命に従うしかなかった。
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