Ⅱ「眠りの加護」

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 翌日、師匠に導かれて踏み入った洞窟の奥には、ふたつの寝台が用意されていた。俺とユラはおのおの、そこに腰掛ける。敷かれた毛布の、洗い立ての石鹸の匂いが、ふわりと俺とユラを包む。 「なんだか緊張しちゃうね」  ユラが笑う。こんなときに笑顔でいられるユラは強い女だと、俺は密かにその胆力に舌をまいた。俺は手の震えが止らないというのに。それを見てユラが俺に問うた。 「怖いの? ダズ」 「そりゃあ、怖いさ。目覚めるのが、50年後だなんて」  すると、ユラが俺の腕を、ぎゅっと掴んだ。 「私は、怖くないよ……だって……」  そのとき、師匠があたたかな湯気が立ち上る茶器をふたつ手にし、俺たちの前に再び現われた。そして茶器をそっと俺たちの手に渡すと、厳かに告げる。 「さあ、ダズ、ユラ。これを飲むがよい」  俺とユラに迷う暇はなかった。いや、そんな暇は与えられなかったというべきか。俺たちは一気にセセラの実が入った茶を飲み干した。ほのかな酸味のある熱い液体が喉元を滑り落ちていく。  そして俺とユラは寝台に横たわり、毛布にくるまった。  ユラが、俺の瞳を見つめながら微笑んだ。 「おやすみ、ダズ」  俺もつられるように、その面影に向かって呟く。 「ああ、おやすみ、ユラ」  セセラの実の効き目は思った以上に早かった。間を置かず、視界に靄がかかり始める。  記憶にある50年前の出来事は、そこまでだ。  ……なのに、覚醒したのは俺だけで、まさか、ユラは死んでしまったとは。
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