Ⅲ 追憶

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Ⅲ 追憶

 覚醒して数日が経った。  といっても、俺は寝台から起き上がれるほどの体力の回復はまだなく、その間の俺の世話のすべては、あの老婆ひとりによって成された。  目が慣れてきた頃、老婆の顔はことのほか醜いことに、俺は気づく。  ただれた火傷の跡と思われる顔の傷。腕や手も傷だらけで、それは、鋭い刃物による切り傷のように見えた。  だが、俺にはそんなことはどうでもよくて、ユラのことばかり考えていた。  俺とユラが初めて出会ったのは、師匠に弟子入りをした日のことだった。  初対面のユラは、顔色の悪い痩せこけていた女の子といった印象しかなかった。明るい栗色の髪はボサボサで、しかもくせっ毛なものだから、毛があらゆる方向に跳ねていたのが内心可笑しかったことを、昨日のことのように思い出す。  だが、そんなからかいに近い感情も、彼女の持つ超人的な魔力を目にしたとき、あっさり俺の中から吹っ飛んだ。同じ素質がある、という者同士でも、俺の魔力と彼女のそれの間には、圧倒的な差があったのだ。  その日から俺とユラは、好敵手(ライバル)として、また、共に魔術を極める仲間として技を競い、友誼を深めていった。  しかしながら、隣国からの難民だったという彼女の素性を知ったのは、だいぶん後のことである。  ユラは、隣国へも波及した戦渦により、家族ちりぢりになって、命からがらただひとり、俺の国に逃げてきたとのことだった。その逃亡生活は、土を喰らい泥水を啜るような悲惨この上ないものだったという。 「たまたま、魔力の素質を見いだされて、お師匠さまに拾ってもらえなければ、私は、とっくに死んでいたわね」  彼女は俺と親しくなるにつれ、ぽつり、ぽつり、とだが、そのようなことを話してくれたのだった。
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