Ⅳ 再会

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 その隙をついて、老婆は魔杖を高く掲げながら、洞窟を出て行く。一体あの痩せた身体の何処から出てきたのかと思うほどに、老婆の放った魔力は予想外に強かった。俺は動くことも出来ずにその後ろ姿を、ただ声も出せぬまま、見つめているしか術が無い。  そうしているうちに、老婆の姿はやがて洞窟の外に消えた。  そして、程なく、俺の耳に届いたのは、複数の敵の嘲りの声である。 「なんだ、またやる気か? !」  「いいじゃねえか。お前が望むのなら、これで最期にしてやるよ!」  俺は耳を疑った。  時を置かず、……いやの悲鳴が俺の耳をつんざいた。  ……断末魔だった。  ユラの魔力が解けたのと同時に、俺は洞窟の外に走り出た。久々の疾走に息が切れる。だが、それに構っている暇は無かった。俺は洞窟の入り口の血だまりのなかに、その身を横たえているユラを揺り起こす。 「なぜだ! なぜ名乗らなかった? なぜ死んだなんて嘘をついた? ユラ!」  ユラはごぼり、と口から血を零しながら、曖昧に笑う。そして息も絶え絶えに言葉にしたのは、俺の問いに対する答えとは別のことだった。 「……ダズ……最後に、お願い。もう、いっかい、名前、を、呼んで」 「……ユラ……」 「……おや、す、み、ダズ……」  聞こえるか聞こえないかの微かな声を残し、しわくちゃのユラの瞼が落ちる。……そして、彼女の瞳は二度と開かなかった。
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