30人が本棚に入れています
本棚に追加
悠太とは、フラワーアレンジメントの体験教室でここを訪れたときに知り合った。自分より年下ながら、華村ビルの一階で喫茶店を経営しているやり手(?)の男の子だ。少し茶色がかった髪でショートヘアの、クリクリッとした目が印象的な、子供っぽさの残る小柄な子。
それに比べ、と咲はチラリと花音を見遣った。
花音はまさに大人の男という印象だ。
目鼻立ちのはっきりした端正な顔立ちと背中まで伸びた艶のある黒髪。その髪を緩く三つ編みにし、ゴムで結んで左胸へと垂らしている。
更に一七五センチはあろうかという身長は彼のスタイルの良さを際立たせ、落ち着いた柔らかい物腰は大人の余裕を感じさせた。
いつ見ても、見惚れてしまう。
「で、二階だけど」との花音の声に、咲は我に返った。
「二階は僕の倉庫だから、入居者はなし」
「倉庫、ですか?」
それもまた意外だった。
ビルのワンフロアを丸々倉庫にしてしまうなんて採算が取れないのでは、と他人事ながら心配してしまう。
でも、それを言ったなら、ワンフロアを三万円で貸すのも不採算なのだろうけど。
「お花の道具が多くてね。このフロアだけじゃ足りないんだ」
花音が肩をすくめた。そうですか、と咲は部屋の中を見渡す。
たしかに、部屋の中は整然としていたが、棚の中は窮屈そうに押し込められた花器やラッピング資材で溢れかえっていた。
「それで、ここ四階が僕のアトリエで、五階が咲ちゃんのお部屋。以上かな」
「……あの、三階は?」
失念したのか、故意なのか、花音は三階の入居者に言及しなかった。
「ああ、三階ね」
花音の眉がピクリと動いた。この様子だと、三階の入居者の話はわざと避けたらしい。
最初のコメントを投稿しよう!