アデリアーナ夫人

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アデリアーナ夫人

 昔々あるところに暴虐非道な王様がいました。彼は自分の欲しいものは何でも手に入れ、気に入らないものは何でも消してしまいます。人々は彼を恐れ、敬い、そして憎みました。やがて彼は一人の女性と出会います。アデリアーナ夫人という若く美しい女性でした。彼は欲しいものは何でも手に入れる男です。彼女の夫を国外に追いやると彼女を妻として迎えました。そんなことをされたのにも関わらずアデリアーナは王様によく尽くします。ところが恐怖で人々を支配してきた彼には他人の愛情など信じられるわけがありません。まして自分は彼女を無理矢理奪い取った男です。口では自分を慕っているようなことを言う妻だが、きっと心の中では自分のことを憎んでいるに違いない、そう思っていました。だって彼は若く美しい王妃とは違い年も取っていたし、何より潰れたヒキガエルのような醜い容姿だったのですから。  ある日宮殿に一人の吟遊詩人が現れます。彼は眉目秀麗でよく通るとても美しい声をしていました。王様は喜びます。自分が醜いからか美しいものが大好きだったのです。吟遊詩人は宮殿での滞在を許されました。けれど王様はアデリアーナが楽しそうに吟遊詩人と談笑する姿を目撃して思います。ほらやっぱり、と。激怒した彼は妻を責め殺してしまいます。彼女が息絶える寸前、王様はこう尋ねました。 「あの吟遊詩人めも捕らえてある。今晩処刑だ。最後に何か言いたいことはあるか」  アデリアーナは答えました。 「ああ王様、愛しています。私は不貞などしておりませぬ。ただあなた様だけを……」  そして息絶えたのです。王様は動揺します。本当だろうか? 果たして彼女は本当に自分のことを心から愛していたのだろうか、と。彼の心に大きな大きな石が投げ込まれたようでした。ざわざわと心が波打ちます。 「アデリアーナ、私はとんでもない間違いをしていたのかもしれない」  己の所業を後悔した王様は吟遊詩人を解放し、それ以降善政を敷くようになりました。後に名君として語り継がれるようになる王様のお話。  おしまい、おしまい。
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