エピローグ

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エピローグ

「桂木幸一の事件、今朝テレビでやってたな」 「あ、小島さんも見ましたか。残された美しき妻! みたいなテロップが出てましたね」  昼食時、近所の蕎麦屋に向かう道すがら俺と三島はそんな会話を交わしていた。事件発生から三か月が経過している。 「小島さん、俺もう結婚するの怖くなっちゃいましたよ」 「ふん、お前の場合は相手を見つけるのが先だろうが。しかし……とばっちりで殺されちまったあの藤堂って奴は気の毒になぁ」  俺の言葉に三島は浮かない表情で首を横に振る。 「何だよ、どうしたんだ」 「いやね、少し調べてみたんですよ。刺殺された藤堂隆のこと。彼の実家は元部品メーカーでした。昔はそれなりの規模だったらしいんですが最近はあまり業績が良くなかったのもあってか藤堂は家業を継ぐのを断ったらしいんですよ。それで止む無く廃業したとか」  それがどうかしたのか、という俺の視線に気付いた三島は慌てて付け足す。 「まぁ、聞いてくださいよ。その部品メーカーってのがどうも桂木真奈の実家が借金を背負うことになった原因を作った会社らしいんです」  俺は背筋がゾッとした。 ――復讐。  すべて彼女の筋書き通りだったのかもしれない。自分を無理矢理娶った桂木幸一、そして実家のために犠牲となった自分とは違い自由を選んだ藤堂。憎しみと妬み。王様と吟遊詩人、か。 「彼女、言ったんじゃないかな」  不意に三島が呟いた。 「何をだ」 「死んだフリをする前に、夫に向かって“愛してる”って。桂木は自分がとんでもないことをしてしまったと思い自棄になって藤堂を殺し自分も……」  今となっては真実を知る術はない。事件後真奈は一旦実家に戻ったというがその後行方がわからなくなっている。俺はため息をついて空を見上げた。真っ青な空に大きな白い鳥が飛んでいる。 「こんな街中でもあんな大きな鳥が飛んでるんだなぁ」  三島が頷く。 「ああ、近くに大きな川があるからじゃないですかね」  優美に空を舞うその鳥は自由の象徴のようだった。アデリアーナ夫人は死をもって自由を得、真奈は生きて自由を得た。そういえばあのアデリアーナ夫人の話を調べてみたがネットでいくら検索をしても出てこない。あの話自体彼女の創作だったのだろうか。この先彼女を待っているのはどんな運命なのだろう。俺は軽く頭を振り蕎麦屋の暖簾をくぐった。 了
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