終 章 那智決戦、果無山のあやかし達と不死の霊泉

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時ならぬ銃声、そして痛苦に悶える蹈鞴の絶叫。 驚愕して振り返った肉吸いの長に、致命的な隙が生じた。 「そんな……何、が―」 その瞬間、七代目が一息に間合いを詰めて小太刀で長の胴を横薙ぎに払った。 大きく目を見開いたまま、肉吸いは鮮血をほとばしらせて身を傾けていく。 〈あかりよ、続けて撃つのだ!立てるか!〉 孫市の叱咤に、わたしは力を込めて上体を起こした。 彼がうまくわたしの身体操作を導いてくれたものの、初めて撃つ銃の衝撃は言語に絶する威力だ。 右腕がしびれたようになり、肩の関節が抜けたかと思うほどだった。 だが、今この機をおいてわたしたちの活路はない。 わたしはさっきの手順を繰り返し、あるだけの弾丸を放つべく再装填を始めた。 その間にも、六代目・七代目・2大精霊は残りのあやかし――3体の蹈鞴へと猛攻を仕掛けている。 胡簶童子が、鞠麿童子が、それぞれ1体ずつ蹈鞴を爪で捉えた。 間髪入れず、師弟の剣士がそこに踏み込んでゆく。 〈二刀・"灌頂甘露(かんじょうかんろ)"――!〉 半身に構えて、蹈鞴の梵鐘に小太刀と大太刀を同時に密着させる七代目。 次の瞬間、梵鐘は高圧で押し潰されたように中の本体ごと地へとめり込んだ。 わたしは断崖の蹈鞴本体に向け2射目を放ち、すぐさま次の早合を噛みちぎる。 〈当代よ。わらわの合力はこれで仕舞いじゃ。この技にて……(つい)(いとま)を乞おう〉 剣先を大きく右後方に向けた脇構えで蹈鞴に密着した六代目は、そこから右手だけを逆手に持ちかえた。 〈金乗木(ごんじょうもく)――"金神奈落(こんじんならく)"〉 奥義の名が言霊に乗せられた直後、そのまま真上へと振り抜かれた太刀が梵鐘ごと蹈鞴を両断していた。 「……ありがとう。六代さま――」 逆手で剣を掲げているのは、本来の人格に戻ったユラさんだった。 七代目と合わせてすべての奥義を伝えた六代目は霊力を使い果たし、その魂はようやくの眠りについたのだ。 「お姉ちゃん!」 七代目に代わって、シララさんが叫んだ。 最後に残った蹈鞴が、彼女ら目掛けて跳ねながら迫ってきている。 あやかし狩りの師弟が幾度か斬撃を加えたものの、決定打を与えられなかった個体だ。 梵鐘が、他のものよりさらに大きく分厚い。 「私たちが押さえるから!」 「二人でとどめを!」 胡簶と鞠麿が蹈鞴に躍りかかり、渾身の力を込めてその跳躍を押さえ込んだ。 「白良!」 ユラさんがその名を呼び、梵鐘へと切っ先を突き立てた。 すぐさまシララさんが横に並び、真半身の構えで小太刀と大太刀の切っ先をそこに重ねる。 今度は本来の姉妹として背中合わせになった2人の剣士は、3つの剣尖を一点に集約し全身全霊をかけた言霊を発した。 「火乗金(かじょうごん)――"燎原迦羅(りょうげんかるら)"!!」 熔鉱炉を思わせる無数の火花が長い尾を引き、2人の剣が梵鐘を貫いた。 その瞬間、わたしは最後の弾を断崖の蹈鞴本体に向けて放った。 それは過たず妖異の眼を射抜き、断末魔の雄叫びを上げて激しく痙攣した蹈鞴は、やがて動かなくなった。 が、その赤黒い肉のところどころがボコッ、ボコッ、と水疱のように盛り上がり、内部がオレンジ色に発光し始めている。 〈まさか…()ぜる気か!〉 頭の中で、孫市の叫ぶ声が響いた。
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